Jinshari

ジンシャリ Vol.56

ジンシャリ Vol.56

表紙の1枚 真柏(A-115)

衣をひるがえすかのように豊かに波打つ立ち上がりの幹は、大部分が枯れてシャリと化し、手前に見える赤褐色の生きた幹に、絡み付くようにうねり伸びていく。〈死〉と寄り添いながらも多くの葉を繁らせる、真柏に特有のその生命力の確かさが、観る者の心を打つ。

展示の裏側

盆石の源流―作庭と戦評定のはなし

 9月4日(金)から16日(水)の2週間は、一般財団法人細川流盆石の協力のもと、初秋の恒例展示として定着している「盆石」を紹介する企画展を開催します。そこで本欄「展示の裏側」では、展示会場の裏側で出品者の細川流盆石のみなさんにお聞きした、盆石の源流とも言える2つの“なるほど”と思わせる使われ方をご紹介します。
① 盆石は、庭造りのための“立体設計図”だった!
 盆石は、室町時代の足利幕府8代将軍・義政の頃に確立されたと伝えられています。義政と言えば、東山文化を作り上げた文化人として知られ、山水庭園の造営にも力を入れました。こうした庭園をデザインする際に、盆石の手法が使われたというものです。
 たしかに、庭園と盆石はともに山水景を表現するもの。なにより庭園の構成要素(築山、木々、池、流水など)を検討するには立体の縮景である盆石はうってつけで、しかも打っては消すことができる点は検討段階にぴったりだと言えるでしょう。
②盆石は、戦評定のための“立体展開図”だった!
 「戦評定」とは、戦に向けて作戦を立てたりする軍議のこと。山間部や河川の入り混じる野原を舞台に、軍隊をどのように配すのか、まるでジオラマのような使われ方も盆石ならではの立体的な縮景表現と変化に対応できる機能を活かしたものと思います。
 また、古い盆石の教えのなかには、盆上において戦の展開と勝利を模擬的に実演することにより、勝利の獲得を予め祝うという儀礼的なまじないの側面もあったと言います。農耕儀礼では、豊穣を期して春に収穫を模擬的に行う「予祝」というまじないがあり、同じような考え方が戦評定の盆石に見られるのです。
 絵画にはない機能や技法といった特性を備えるからこそ、歴史に根付き、さまざまな局面で使われた盆石。明治時代以降は、山水景を表現する芸道として極められ現在に至ります。初秋に迎える展覧会では、歴史を通して育まれた機能や技法にも心を馳せ、各作品をご覧いただければ幸いです。

尾形月耕「婦人風俗尽 盆石」明治31年(1898) 国立国会図書館デジタルコレクション

尾形月耕「婦人風俗尽 盆石」明治31年(1898) 国立国会図書館デジタルコレクション

職人のしごと

15年ぶりの植え替え―五葉松 銘 「千代の松」(A-100)

 総高は1.6メートル、横幅は1.8メートルをこえる、当館所蔵品のなかでも最大級の五葉松 銘 「千代の松」。庭園でもひときわ目を引くこの一樹を、15年ぶりに植え替えました。
 植え替えは、開館翌年の2011年以来です。当時の職人はすでに退職しているため、昨春より作業記録を確認しながら準備を進めてきました。
 千代の松はその巨体のため、植え替えの際に人の手で樹を引き抜くことはできません。そこで、今回は足場の支柱で四方を囲って箱型の枠を組み、二本のチェーンで樹体が回転しないよう固定して吊り上げました。並行して、鉢と根鉢の間に鎌を入れて5cmほどの幅を掘り起こし、根を切り剥がして鉢から取り外せるように準備しました。レバーブロックという機器を用いて千代の松の巨体をいざ持ち上げてみると、根は鉢底までしっかり回っており、小根が切れながらもきれいに外すことができました。根鉢には軽石が多く含まれていたため通気性がよく、樹の生長を助ける共生菌もびっしり繁殖しており、15年を経ても太根は走らず、小根の多い健全な状態が保たれていました。上面のコケを取り除き、上根をほぐして通水性を改善しながら、長い根を切り、横根も軽く切り詰めます。
 植え替え用土には、水はけと通気性を重視し、日向土・桐生砂・赤玉土を配合しました。鉢底には硬い大粒のゴロ土を敷き、凹んだ根鉢にも土が入るよう山高に盛り、慎重に樹を下ろします。配置が決まると、お手製の長い竹箸で隙間に用土を突き込み、最後にたっぷりと水を与えて作業は完了です。
 使用した土は1袋14L約10㎏をおよそ8袋。現在、表面には一部コケが貼り直され、水の具合がわかりやすいように用土が見える状態になっています。ご来館の際は、ぜひしゃがんで足元ものぞき込み、使われている土にも注目してご覧ください。
植え替え日:令和8年4月9日(木)

持ち上げられた千代の松

持ち上げられた千代の松

根鉢をくずし、古い土を取り除く

根鉢をくずし、古い土を取り除く

千代の松(A-100)

サポーター通信

―世界に広がる盆栽ファン― ウェルカム・ミュージアム!の活動

 大宮盆栽美術館では、ボランティアによる「ミュージアム・サポーター」を結成し、当館事業を共に担っていただいています。今回のサポーター通信では、ミュージアム・サポーターの活動内容について紹介します。

 新年度が始まり、33人のサポーターが活動を開始致しました。サポーターは小学生の美術館見学のお手伝いや、美術館や公民館でのワークショップでは講師の補助に入ります。団体見学者のガイド、また美術館の資料整理もします。中でも「ウェルカム・ミュージアム!」は様々な来館者に盆栽の素晴らしさを直接お伝えできる楽しい活動です。
 具体的には、毎週土、日、月曜日に、日本各地はもとより世界各国からの来館者に対し、館内、庭園で随時ガイドを通じた活動を行っており、外国語でガイドするサポーターもおります。盆栽に詳しい愛好家から、盆栽に興味を持ったお子さんまで、知りたい情報は違いますので、来館者一人一人とのコミュニケーションを大事にするよう心掛けています。私は日本語、英語、仏語でガイドをしますが、雨の日、道に迷いやっとたどり着いたというベルギー人の女性が「フランス語のわかる人がいるとは思わなかった!」と喜んでくれた事がありました。以前来た時に好きになった或る盆栽に、再びアメリカから会いに来た男性もいました。来館者から「盆栽を観るのが楽しくなった。また観に来たい。」という言葉を聞けるのが最大のご褒美です。
(ミュージアム・サポーター 篠崎ゆかり)

令和8年度ミュージアム・サポーターガイダンスにて

令和8年度ミュージアム・サポーターガイダンスにて

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