Jinshari

ジンシャリ Vol.49

ジンシャリ Vol.49

【表紙の1枚】 山もみじ(青枝垂れ)(A-129)

山もみじの一品種「青枝垂れ」の盆栽。細い枝が長く伸び、下に垂れる「枝垂れ性」の一種で、細く切れ込みの深い葉が見どころ。
もみじ独特のあたたかみのある白い幹肌と、鮮やかに繁った青葉が、初夏の風を感じさせる。
https://www.bonsai-art-museum.jp/ja/collection/a-129/

展示の裏側

席飾りの名脇役「卓」

盆栽の晴れ舞台は、座敷の床の間飾りにあります。座敷飾りでは、盆器、卓、添え物、掛軸などと取り合わせ、盆栽を主役とした調和の取れた空間を形作ります。これらの飾りの品々の中で、盆栽をとりわけ引き立たせるものが、木製の飾り台である「卓」です。卓に置くことで、屋外とは全く異なる盆栽の格調高い姿が引き出されます。今回の「展示の裏側」では、盆栽を輝かせる名脇役といえる「卓」に注目してみましょう。

 卓には、様々な形状・意匠があり、盆栽の大きさや樹形・樹種に合わせて選びます。例えば、どっしりとした直幹や模様木の盆栽には机卓(きじょく)、懸崖の盆栽には足長の高卓(たかじょく)、草物の盆栽には低い平卓(ひらじょく)や巻卓(まきじょく)をよく合わせます。紫檀や花梨などの唐木が素材として好まれますが、夏季には竹を用いた涼感溢れる卓を合わせるなど季節感を重視します。

 当館では一週間ごとに屋内コレクションギャラリーの盆栽の展示替えを行っているため、卓も数多く必要になります。既に約80点を所蔵していますが、令和5年度に、神奈川県で盆栽園を営む松田恭治様より新たに12点の寄贈を受けました。いずれも明治~昭和期にかけて活躍した唐木指物細工の名工である小川悠山、葛木香山、金子一彦等が制作した卓で、美術工芸品としても極めて価値が高いものです。このような近代の名工による卓は、市場に出ることも稀であり、盆栽界では垂涎の品とされています。

 今回の寄贈により、当館が所蔵する名樹の姿を一層引き立てた飾りを展開することができると思います。いずれ、お披露目される日を楽しみにお待ちください。

盆栽:黒松(A-069)/卓:天然彫高卓(D-012)/木の根が複雑に伸びる様を彫刻した高卓が、松の躍動感ある半懸崖の樹形と見事な調和を見せる。

盆栽:黒松(A-069)/卓:天然彫高卓(D-012)/木の根が複雑に伸びる様を彫刻した高卓が、松の躍動感ある半懸崖の樹形と見事な調和を見せる。

大宮盆栽美術館ホームページ/コレクション/卓

職人のしごと

芽摘み―盆栽の美しい姿を保つ

暖かな陽光が降り注ぐ春。新葉が萌え出てくる季節になると、職人たちの重要な春の手入れ「芽摘み」が始まります。ぐんぐんと成長する春の新芽は、樹形を小さく維持しなければならない盆栽にとって悩ましい側面でもあり、様々な剪定技術によって木々の生長を抑制しています。

 その技術の一つに「芽摘み」があり、芽が膨らみ、葉が開く直前の二葉を残して、先端の新芽をピンセットなどで摘み取る(生長点を止める)作業をいいます。タイミングを逃すと枝が伸びすぎて、コンパクトな枝ぶりを維持することはできません。伸ばす場所と短く摘み込む場所の強弱を取りつつ、全体のバランスを整えるのがコツといえます。

 芽摘みの技術は、雑木盆栽の名手として知られる大宮盆栽村の芙蓉園初代園主、竹山房造氏が研究の末、確立しました。摘むタイミング、摘み取る位置などを変えながら最も良い方法を模索し、実践していきました。それ以前は、最初に出た枝が伸びて成長が止まった後で、枝の根元まで切り戻し、二番目に出てくる芽を伸ばすことで生長を抑制していました。しかし、この方法では枝先がこぶ状になることから、繊細な小枝を作り上げるために房造氏が研究を始めたと芙蓉園では伝えられています。

 やがて、芽摘みをした盆栽は枝ぶりが良いとの評判を呼び、同業者や愛好家に広まりました。盆栽の参考書にも紹介され、現在では様々な樹種で行われる当たり前の作業となりました。培養技術の開発は、先人たちの努力により発展してきたのです。現在も新たな手入れが試行錯誤され、より良い方法が日々生み出されています。

もみじの芽摘み

もみじの芽摘み

【関連ページ】大宮盆栽美術館ホームページ/盆栽について/盆栽の技

サポーター通信

「子どもたちの美術館デビューをサポート」―学校見学活動

【大宮盆栽美術館では、ボランティアによる「ミュージアム・サポーター」を結成し、当館事業を共に担っていただいています。今回のサポーター通信では、サポーターの5つの活動のうち、ガイド事業についてご紹介いただきます。】
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 歴史ある有名盆栽、はたまた小さな菊やりんどうが開き始めた寄せ植えを、あるいは興奮ぎみに、あるいは小さな声で「この盆栽がいちばん好き」と言ってくれる小学生たち。

 当初抱いた、小学3年生と盆栽、接点がなさすぎるのでは…という心配をよそに「帽子のつばがぶつかりそうだなぁ」と警備員さんが見守るほど、盆栽に食いついてくれる姿を見ると、ほんものの力ってすごい!とあらためて実感させられます。

 「千年の盆栽と写真を撮りたい」と大人気の蝦夷松「轟(とどろき)」や、樹形ポーズの子どもたちに囲まれる真柏「北斎」をみていると、盆栽が照れているような気さえしてきます。秋の真っ赤なツタの葉がよかった、冬空の下茶色くなったフウチソウに興味津々…。なにげなく佇んでいるようでも、選りすぐられて、お手入れ万全の盆栽たちを、子どもたちは見逃しません(笑)。

 「あれもいい!」と帰りぎわでも、好きな盆栽を発見して名残惜しそうにしていたみんな、また会いに来てね!五葉松「輝(かがやき)」は相変わらずだよ、ヤマコウバシは激変中。

 子どもたちにそうとは気づかれないぐらいのさりげないサポートで、もしかしたら大事な美術館デビューかもしれない一日をいっしょに楽しんでいけたらいいなと思っています。
(ミュージアム・サポーター 小謝林のぞみ)

盆栽クイズで理解を深めます。・・・この問題、わかる人?―—はいっ!

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はっと驚くような感想が飛び出してくることも。

はっと驚くような感想が飛び出してくることも。

【関連ページ】蝦夷松 銘「轟」A-005

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